消化器外科医のための抄読会のネタブログ

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大腸癌手術におけるプロカルシトニン測定の意義

Procalcitonin Reveals Early Dehiscence in Colorectal Surgery: The PREDICS Study.

Ann Surg. 2016 May;263(5):967-72

  • 背景
    • 2-14%で起こり得る縫合不全は大腸手術で最も懸念される合併症である。
    • 縫合不全は患者の術後経過に大きく影響する。
    • 多くは縫合不全の発見が遅れ、敗血症や腹膜炎などを起こしうるが、早期の発見によりそれを改善できる。
    • 近年のERASなど早期回復プログラムの導入で、早期に退院した患者では縫合不全の発見が遅れる可能性がある。
    • プロカルシトニンは甲状腺のC細胞で産生され、カルシトニンの前駆ホルモンとしての機能を持つ。通常状態では低レベルであるが、細菌性感染により発現上昇し、細菌性感染のモニタリングとして有用である。
    • 今回、我々のpilot studyの結果より、プロカルシトニンの縫合不全早期発見の有用性を検証した。
 
  • 方法
    • 多施設共同前向き観察研究
    • 対象は悪性疾患に対し予定手術で大腸切除吻合を施行した症例 (開腹+腹腔鏡)。
    • 周術期の臨床データを集積(術後3,5日目に血中プロカルシトニン、CRP,WBCレベルを測定)
    • 1日2回の状態評価と1日3回のバイタル測定を施行した。
    • 退院の決定は以下のクライテリア
      • 許容できる程度の経口摂取が可能。
      • 下部消化管機能が回復している。
      • 疼痛が経口鎮痛剤でコントロールされている。
      • 敗血症を疑う所見なし。
    • 縫合不全の評価
      • 注腸造影併用のCTスキャンでの造影剤漏出。
      • ドレーンの混濁
      • 腹膜炎や腹水貯留
      • 吻合部周囲のairの存在
      • 再手術や穿刺ドレナージが必要なものをmajor leakageとした。
    • 統計
      • プロカルシトニンのcut off値については、縫合不全予測のROC曲線にて決定した。
 
  • 結果
    • 504例が対象で28例(5.6%)に縫合不全が認められた。
    • 術後3日目の特異度はPCT:91.7%、CRP:81.8%。
    • 術後5日目の特異度はPCT:93.0%、CRP:86.0%。
    • 術後3日目のAUCはPCT:0.775、CRP:0.772、WBC:0.601。
    • 術後5日目のAUCはPCT:0.862、CRP:0.806、WBC:0.611。
    • PCTとCRPを同時に測定すると術後5日目のAUCは0.901に改善した。
 
  • 結語:縫合不全を早期に診断できるマーカーとしてPCTは有用である。CRPも有用であり、両者の併用により診断用は向上する。
 
  • あとがき:
    • 単なる術後合併症の指標ではなく、縫合不全に特化して解析されているところが興味深い。
    • PCTは他の合併症と比較しても、特異度が90%以上と非常に高く有用である。
    • PCTは現在「敗血症を疑う患者を対象とする」ことになっており、本研究のような予防的な測定は日本では不可能である。
    • しかし、術後3-5日目のCRPのみで縫合不全を診断できるかといわれると難しい気がする。
    • 現在の大腸癌術後早期回復プログラム(ERAS)では術後5日目には退院することになっており、見逃してはいけない合併症に特化して考えられた研究である。

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