消化器外科医のための抄読会のネタブログ

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肝外転移を伴う大腸癌肝転移に対する切除術

あけましておめでとうございます。年が明けて普段と変わらない日常がまた始まりました。年末年始はいろいろと忙しかったのですが、何とか論文を読むことができました。今年もできるだけ続けるのが目標です。

前回からの続きの2報目です。大腸癌に関しては切除術を行わないと根治は望めないと思います。肝限局転移症例には根治が行われることも多いですが、肝外転移を伴う症例には根治術は躊躇されることが多いです。今回は肝外転移を伴う肝転移症例に対する切除術の報告です。

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Colorectal Cancer Liver Metastases and Concurrent Extrahepatic Disease Treated With Resection.

Ann Surg. 2017 Jan;265(1):158-165.

 

Introduction

  • かつて肝外転移を伴う大腸癌肝転移に対し、肝切除は禁忌であった。
  • しかし最近では、限局した肝外転移を伴う肝転移症例に対して、同時切除を行うことで、中期予後が得られることがわかってきた。
  • たいていの症例はその後再発し、中でも術後短期間で再発をきたし、手術以外の治療が望ましかったと思われる症例も存在する。
  • 肝外転移を切除した症例に対するデータはあまりなく、どのような症例に行うべきなのかもよくわかっていない。
  • さらに外科医は大腸癌肝転移を切除する際に、予期せぬ肝外病変(リンパ節転移や腹膜播種)などを術中に発見し、このまま手術を進めるべきなのか悩む機会が時々見受けられる。
  • 我々は以前、肝外転移を伴う大腸癌肝転移症例の切除成績を報告しているが、今回updateされた成績を報告する。


Methods

  • Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにおいて1992年から2012年までの期間に肝転移切除時に判明していた肝外転移を同時期(6ヶ月以内)に切除した症例を対象とした。
  • 肝転移が不完全切除(R2)であった症例は除外された。

 

Results

  • 2693例の肝切除症例のうち、219例が今回の解析対象となった。80%の症例で、肝外転移は肝転移と同時に切除された。
  • フォローアップ期間の中央値は31.2ヶ月であった。OSの中央値は34.4ヶ月で3、5、10年生存率はそれぞれ49%、28%、10%であった。
  • RFS中央値は8.3ヶ月でで3、5、10年無再発生存率はそれぞれ9%、5%、3%であった。
  • フォローアップできた205人のうち、185人(90.5%)が再発した。肝内再発が57.6%(再発までの期間8.1M)、多臓器再発84.4%(8.0M)。再発した症例の22%が再度手術施行。
  • 根治率は6.6%であった。10年以上の無再発症例は5例あり、全例が肝転移単発+肝外転移が肉眼的完全切除+術後補助療法を受けていた。
  • 肝外転移別の予後は門脈・後腹膜領域LN転移、多臓器が予後不良グループで、それ以外は予後良好グループであった(5年生存率:13.2% vs 36.5%, MST: 25.2M vs 45.7M)。
  •  OSの予測因子として、3㎝より大きな肝転移巣、肝転移個数6個以上、門脈・後腹膜領域LN転移/多臓器転移、術前化学療法中の増悪が多変量解析で挙げられた。そのうち前者3因子でRisk score modelを作成したところ、因子の数が増えるほど予後不良であった。

 

Discussion

  • 本研究は肝転移並びに肝外転移に対する切除術の研究として、最大規模であり、かつこれほど長いフォローアップ期間は初めての報告である。
  • 肝外転移巣の不完全切除症例は予後不良であり、完全切除ができなければ切除は禁忌である。
  • また、本研究で作成したRisk scoreモデルで3因子陽性の症例は極めて予後不良であり、切除術の適応とすべきでない。特に腹膜播種(carcinomatosa)症例や広範な後腹膜リンパ管症症例や術前化学療法増悪症例は対象から外すべきである。
  • しかし、術前化学療法に関しては全例が術前化学療法を受けているわけでなく、奏効度の評価も一定ではないため結論として協調しない。別の研究が必要となる。
  • レトロスペクティブ研究であるため、手術を施行されなかった症例がどのくらい存在したのか不明であり、生存成績には大きなセレクションバイアスが存在する。しかし、肝外転移巣が不完全に終わった症例は予後がより不良であったことを考慮すると、肝外転移巣に対する切除術は意義があると示唆される。
  • 限局した肝外転移を伴う肝転移症例に対する切除術は長期生存をもたらすことが可能である。

 

コメント

少し飛ばし読みした所があります。

やはり多臓器転移症例は今の治療法では根治にはほど遠いです(6.6%)。しかし、根治率は0%ではありませんし、生存期間は延長が期待できるので、切除術を念頭に置いた治療戦略が必要だと思いました。

今回、根治を目指す戦略ということで、最強の化学療法FOLFOXIRI+Bmabの治療成績と拡大手術に関する報告をそれぞれ読んでみました。しかし、これら2報の結果からも、根治までもっていくには相当厳しく、今までにない治療法の開発や発想が必要だと感じました。進行大腸癌がどうしても根治に持っていけない場合は、大腸カメラを対策型検診として始めないと、このまま大腸癌による死亡者数は増え続けるように感じています。