消化器外科医のための抄読会のネタブログ

私の夢は毎週の抄読会がなくなることです。

大腸におけるCOX-2発現は吻合部治癒に重要である。

12月が近づくと、忘年会やらクリスマスやらで街中があわただしくなります。我々消化器外科医は12月に消化器外科学会の抄録締め切りがあるから、それを乗り越えない限りは、年末の浮かれ気分はやってこないのだ!

以前から大腸術後にNSAIDSを使うと縫合不全が増加してよくないといわれていました。今回の論文はそのメカニズムの一つを示していると思います。外科領域でこのようなマウスを用いた実験を行うのはかなり勇気がいると思いますが、この筆者らはいい結果を示しています。

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Cyclooxygenase-2 Is Essential for Colorectal Anastomotic Healing

Ann Surg. 2016 Apr 8.

 

Introduction

  • COX-2は腸管のホメオスターシスに重要な酵素で、アラキドン酸からプロスタグランジンを生成する。プロスタグランジンE2(PGE2)は実験モデルにおいて、腸管の炎症やダメージを正常に回復することが報告されている。
  • COX-2の発現は炎症性サイトカインや感染の暴露後、マクロファージや筋線維芽細胞などの間質細胞によって誘導され、細胞の分化やアポトーシスの抑制を引き起こす。最終的には上皮細胞から産生されたCOX-2とPGE2はVEGFにより引き起こされる血管新生に密接にかかわっている。
  • 大腸手術後のCOX-2を強く阻害するNSAIDSの使用は縫合不全を増加させることが報告されているが、最近のMetaanalysisではその証明はなされていない。
  • このような背景から、筆者らはNSAIDSとCOX2のKOマウスを用いて、COX-2が大腸手術時の吻合部への血管新生ならびに創傷治癒に重要な役割をはたしていることを報告する。

 

Methods

  • COX-2KOマウスを用いて、右結腸を切除後に吻合する手術を施行した。縫合不全率は25-33%。
  • マウスにPGE2アナログかNSAIDSであるジクロフェナックを術前1日目から実験終了まで腹腔内投与した。
  • マウスは術後5日目にsacrifyされ、縫合不全の有無を確認され、吻合部周囲の腸管は免染用とRNA抽出用に採取された。
  • 148例の大腸切除後症例のFFPEサンプルから、DNA抽出した。そのDNAを用いて、COX-2遺伝子多型(-765>GC)を調べ、縫合不全との関連性を調べた。

 

Results

ジクロフェナック投与によるCOX-2阻害実験

  • コントロールマウスでの縫合不全率は27%であったが、ジクロフェナック投与群は縫合不全率100%であった(P=0.001) 。
  • 生存成績もジクロフェナック投与群が有意に不良であった(HR17.9, 95%CI 3.7-87.4)。

COX-2 KOマウスによる実験

  • COX-2 KOマウスと野生型マウスにおける縫合不全率を比較したところ、COX-2-/-マウス群では縫合不全率92%で野生型では27%であった(P=0.003)。
  • 生存成績もKOマウス群が有意に不良であった。

COX-2阻害による免疫反応への影響。

  • 創傷治癒の早期では好中球が免疫反応の主体であるが、COX-2 KOマウスと野生型マウスではペルオキシダーゼ染色(好中球と単球を染色する)で染まる細胞数に差はなかった。
  • また、マウロファージの細胞数にも差がなかった。
  • これらの結果は局所の細胞性免疫反応はCOX-2発現と関連がないことを示し、別の要因が関与していることを示唆した。

COX-2阻害による血管新生への影響

  • 吻合部の虚血が縫合不全の要因であり、COX-2が血管新生にかかわっていることから、COX-2 KOマウスでは吻合部領域の血管新生が阻害されているのかを調べた。
  • 血管新生の指標であるCD31抗体(血管内皮細胞表面に発現)で染色したところ、COX-2 KOマウスは野生型と比較して有意に血管数が少なかった(2 vs. 6 vessels/mm2, P=0.03)。
  • COX-2 KOマウスにPGE2を投与した群はコントロール群と比較して血管数の増加を認めた(4 vs. 2 vessels/mm2, P=0.03)。
  • VEGF発現レベルはCOX-2 KOマウスより野生型マウスのほうが高く(P=0.02)、COX-2 KOマウスにPGE2を投与した群のほうがコントロール群より高かった(P=0.03)。

実際のヒト症例でのCOX-2多型と縫合不全の関係

  • 大腸癌切除後の148症例でPTGS2 -765G>C多型を調べたところ、C/C症例が縫合不全率43%(3/7)で、その他は11%(16/141)であった(P=0.02)。

 

Discussion

  • 吻合を伴う大腸手術の周術期はNSAIDS投与は控えるべきである。
  • COX-2変異症例は吻合部の創傷治癒が阻害される可能性がある。
  • 全体から見ると3%の頻度であるが、PTGS2 -765C/C症例は縫合不全率高いので、PGE2投与などが考慮されるべきである。

 

コメント

大腸癌切除標本の切除断端付近におけるCOX-2の発現レベルと縫合不全の関連を調べてみてもいいかもしれません。消化器外科学会の抄録には間に合いません。