消化器外科医のための抄読会のネタブログ

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RAS野生型切除不能大腸癌において、原発巣の局在がPrognosticとPredictiveな指標になるか?

JAMA Oncol. 2016 Oct 10. doi: 10.1001/jamaoncol.2016.3797

 

今回は前回に引き続き、左右大腸癌の違いについての論文であります。First authorは泣く子も黙るTejpar先生なのだ!なんて読むんでしょうねー。他の共著者も若手のStintzing先生をはじめ、有名どころがたくさんそろってますねー。ずるい!また、JAMA Oncologyというところもなんかずるい!これはまだIFついてないですけどたぶんJCOとLancet Oncolの間ぐらい(IF20前後)行くんじゃないでしょうか。

日本でも現在PARADIME試験が行われていますが、こういうunmet needsに対する王道的な大規模ランダム化試験をもっと行ってほしいですなー。いかんせんNCCN大腸癌ガイドラインに日本の論文は外科的なもの以外ほとんど引用されていませんから。

 

 

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Intdoduction

  • 左結腸は後腸、右結腸は中腸由来である。
  • CRYSTAL 試験において、FOLFIRIにCmabを併用することにより、KRAS野生型切除不能大腸癌においてPFS, OS,RRの改善が認められた。
  • さらにextended RAS解析によりよりはっきりとその効果が認められた。
  • 切除不能大腸がんはheterogeneousであることを強調すると、原発巣の部位により、臨床的にも分子生物学的にも異なった疾患と考えられる。
  • 右結腸癌の特徴として、BRAF変異、マイクロサテライト不安定性、hypermutation、serrated pathway signature、mucinous癌症例が挙げられる。
  • 左結腸癌の特徴として、EGFR阻害剤感受性に関連する遺伝子発現プロファイル(HER2 amplified, epireglin high, CIN)が挙げられる。
  • またこれら分子生物学的な違いにより、右結腸癌は予後不良である。
  • このような分子学的な背景の違いがあるにもかかわらず、原発巣の局在が臨床試験のクライテリアには含まれてこなかったし、治療法選択に影響するかもまだ不明である。
  • 原発巣の局在とCmabの治療効果に交互関係があることを示す報告がいくつかある。
  • Cmabは左結腸癌のほうが効果が高い。
  • 今回CRYSTAL試験とFIRE3試験の2大コホートを使用して、Cmab+FOLFIRI治療を受けたRAS野生型切除不能大腸癌における、原発巣局在のprognosticとpredictive valueについて検証した。

 

Methods

  • 原発巣の局在は虫垂盲腸~横行結腸までを右大腸に、脾湾~直腸までを左大腸に分類した。
  • 両側にある多発癌は除外した。

 

Results

  • Baseline characteristics
    • CRYSTAL 右大腸癌:84例(23%)、左大腸癌:280例(76%)。
    • FIRE3 右大腸癌:88例(22%)、左大腸癌:306例(76.5%)。
    • 両試験において右大腸癌に女性、多臓器転移が多く、左大腸癌に肝限局転移が多かった。
    • CRYSTAL試験では右大腸癌でCmab+FOLFIRIを受けた症例は2次治療以降の治療移行割合が低かった。
    • FIRE-3では2次治療以降にそのような傾向は認めなかった。
  • 原発巣局在のPrognostic value
    • CRYSTAL試験では、Cmab+FOLFIRI群において、左大腸癌のほうが右大腸癌よりPFS,OS,ORR全て良好な成績であった。また、FOLFIRI群でも左大腸癌のほうが、有意ではないが右大腸癌より成績良好であった。
    • FIRE3試験でも同様に、Cmab+FOLFIRI群ではORR,PFS,OSすべてにおいて左大腸癌のほうが右大腸癌より良好な成績であった。この傾向は弱いものの、Bmab+FOLFIRI群でも認められた。
  • 原発巣局在のPredictive value
    • CRYSTAL試験では、左大腸癌症例において、Cmab併用により予想を上回るPFS,OS、ORRの有意な改善効果を認めた。しかし、右大腸癌ではサンプルサイズは小さいことを考慮しなければならないが、Cmab併用の効果は限定的であった。
    • FIRE3試験でも同様に、左大腸癌ではCmab+FOLFIRI群の方がBmab+FOLFIRI群よりも有意に良好なOSであった(PFSとORRは有意差なし)。反対に右大腸癌ではCmab群とBmab群に差は認められなかった。
  • 原発巣局在と治療法の交互作用に関する多変量解析
    • CRYSTAL試験:PFSとOSに関して、原発巣局在と治療法(Cmab併用vs非併用)の間には有意な交互作用が認められた。
    • FIRE-3試験:OSに関してのみ、原発巣局在と治療法(Cmab併用vsBmab併用)の間に有意な交互作用を認めた。

 

Discussion

  • 多変量解析の結果、原発巣局在による治療効果の違いはBraf mutation statusとは独立していた。しかし、Braf野生型でも変異型と同じような遺伝子発現様式を示す症例もあり、それらが右大腸癌に多いといわれている。
  • 以前の研究ではEGFR経路の活性化したシグナルが左大腸癌でよく認められ、それが理由でEGFR阻害剤治療に効果があるのかもしれない。
  • CALGB/SWOG80405試験では全体解析ではCmabとBmabの成績に差がないにも関わらず、原発巣局在別では本試験と同様の結果が認められた。

 

結論

  • RAS野生型切除不能大腸癌において、原発巣局在が予後因子であることは結論付けてよいだろう。
  • 左大腸癌ではCmab併用の効果が高く、右大腸癌ではそれほどでもないことが示唆される。
  • また、左大腸癌ではCmab+FOLFIRIのほうがOSに関してはより望ましいオプションかもしれない。

 

コメント

  • 今後は左右大腸の遺伝子プロファイリングの違いなどが報告されていくことが予想されます。