消化器外科医のための抄読会のネタブログ

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右左結腸癌での治療方針と分子学的特徴の違い

昨今、大腸がんの世界では原発巣の左右部位別により分子標的薬の治療効果が異なることで、もー大盛り上がりです。古そうで新しいこのテーマに関して勉強するために、今回はReviewを読んでみることにしました。論文は以下のもの。

World J Gastroenterol 2015 June 7; 21(21): 6470-6478

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  • Introduction
    • 結腸は発生学的に中腸と後腸に分かれて由来している。
    • 解剖学的には血流や神経支配、リンパ管ドレナージ、管腔内環境が右と左結腸で異なっている。
    • 左結腸癌のほうが頻度は多いが、右結腸癌の数が増えてきている。
    • 右結腸癌の特徴として、女性、高齢、インスリン耐性、低分化腺癌(mucinous)、より進行した病態、リンパ節転移高頻度、腹膜転移が遠隔転移より多いなどがある。
  • 予後と治療方針
    • 切除症例StageI-III、StageII-IIIで左右の予後の差なし。
  • 術後補助化学療法
    • 術後補助化学療法StageIIでは左右結腸癌で予後への効果なし。
    • StageIIIでは右結腸で36%、左結腸で39%の5年OS改善効果あり。
    • FOLFOX術後補助療法に関して、症例全体では左結腸のほうが予後が良かった(N0147試験)。
    • pMMR症例のみのサブグループ解析では右結腸癌のほうが左結腸癌よりDFSは良好であった。dMMR症例では右結腸癌でのみpMMRより良好なDFSが認められた。
    • KRAS statusは右結腸癌ではTTR、DFSに影響しなかったが、左結腸ではKRAS変異型がTTR,DFSの予後不良であった。
  • 切除不能大腸がんに対する化学療法
    • Stage IV大腸癌では腫瘍部位により化学療法の治療効果が異なる。
    • 左結腸癌症例のほうが明らかに予後が良い。
  • 抗EGFR療法
    • Cetuximab併用化学療法症例では、左結腸患者が有意に良好な結果でPFS7.7 vs 5.2か月で、OSが23.6 vs 14.8か月であった。
  • 抗VEGF療法
    • Bmab併用化学療法症例でも左結腸患者が有意に予後良好な結果であった。
  • Genotype
    • cDNAマイクロアレイでは1000遺伝子において右左結腸間の発現量に差が認められる。
    • MMP2、P53、βカテニンが左より右結腸に高発現していた。
    • Chromosome instaibility経路は左結腸で75%、右結腸で30%に認められる。
    • P53変異は左結腸で多く認められる(45%vs34%)。
    • MSI-H大腸癌は右結腸で多い(90% vs 19%)。
    • CIMPは17-28%の大腸癌で認められるが、頻度的には右結腸癌に多い。
    • ゲノムワイドメチル化も右結腸で頻度が高い。
    • PRAC遺伝子の高メチル化は右結腸で、CDX2遺伝子の高メチル化は左結腸で頻度が高い。
    • KRAS変異は右結腸で頻度が高い。
    • BRAF変異の頻度も右結腸で高い。
    • BRAF変異の頻度は口側から肛門側へリニアに減少していく。
    • miRNAの発現も腫瘍部位と関連している。
    • ERCC1はKRAS野生型大腸癌では右結腸に高発現している。
    • テロメアーゼの発現は右結腸のほうが高い。
    • TopoIとTS発現は左結腸で高い。

 

あとがき

まーわかったようなわからないような。そんな不思議な気持ちになれますね。つまりはなぜ分子標的薬の効果が左右で異なるのかはまだ分かっていないみたいですね。特にCetuximabが顕著で、RAS statusより影響が強いようです。

 

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