消化器外科医のための抄読会のネタブログ

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大腸癌肝転移: 肝切除か全身化学療法か?

Early tumour shrinkage (ETS) and depth of response (DpR) in the treatment of patients with metastaticcolorectal cancer (mCRC).

Eur J Cancer. 2015 Sep;51(14):1927-36.
 

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背景:
大腸癌肝転移に対する治療は肝切除が第一選択で、長期生存を望める唯一の治療法であると認識されている。よって、大腸癌肝転移症例に対する肝切除VS全身化学療法の臨床試験は倫理的に受け入れられないと考えられる。今回は、切除不能大腸癌肝転移症例に対し全身化学療法を施行した2つの第III相臨床試験(CAIRO, CAIRO2)について、ベースラインに肝切除が可能であったかを検証した。次に肝切除可能であった症例と実際に肝切除を施行した別コホートの症例をマッチさせて生存成績の比較を行った。
 
方法:
  • 全身化学療法群:CAIRO試験(sequential vs combination: n=820)とCAIRO2(capeox+Bmab vs capeox+Bmab+Cmab: n=755)を全身化学療法群の対象とした。これらの臨床試験は切除不能大腸癌であることが登録基準であったが、 今回新たにmultidisciplinary liver teamによる肝切除の可能性判定を行った。肝限局転移症例(転移個数10個以下)の症例を対象とし、化学療法後肝切除施行した症例やFong’s CRS(CEA、肝転移個数、サイズ、原発巣リンパ節転移、原発切除から転移巣治療までの期間)のデータがない症例は除外した。
  • 肝切除群:CAIRO試験と同時期にラドバウド大学とエラスムス医療センターにて肝切除を施行された症例を対象とした。術前化学療法症例やRFA併用症例は除外した。
  • 肝切除の判定とマッチング:2つのCAIRO試験のベースラインCTを3人の肝臓外科医が判定した。マッチングは性別、年齢、Fong's CRSの5因子、肝外転移なしを用いて行った。
 
結果:
  • マッチングされた症例の内訳:全身化学療法群で登録基準に合致した症例は36例であった。肝切除群359例がマッチングされた。
  • 生存成績比較:全身化学療法群のマッチングされた症例のOSは化学療法群全体のOSより優位に高かった。Median OS:全身化学療法群27ヶ月 vs 肝切除群56ヶ月(P=0.027)であった。

 

コメント:
全身化学療法と肝切除のどちらが有効かを検証した研究ですが、CAIRO/CAIRO2試験ともに現在の標準治療とはいいがたいレジメンの試験である点が問題だと思います。また、10個以上の肝転移症例は除外されており、このような症例が本来比較されるべき症例ではないでしょうか? しかし、方法論としては興味深く、より多数の第III相試験とLivermet surveyのデータなどを比較すると面白いのではないでしょうか。

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