消化器外科医のための抄読会のネタブログ

私の夢は毎週の抄読会がなくなることです。

腹部手術の閉腹創における予防的Negative pressure dressing

毎年この季節になると時間が経つのは早いなーと思います。クリスマスまでの街が浮ついた感じが自分は好きなのですが、それが終わると一気に日本的な感じで、年末の当直も相まってあまり好きになれないのです。今回は忘年会が忙しいので、少し簡単な論文を読んでみました。

 

Prophylactic Negative Pressure Dressing Use in Closed Laparotomy Wounds Following Abdominal Operations

Ann Surg. 2016 Dec 6.

 

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Introduction

  • 手術部位感染は患者や医療者側にとっても負担のかかるものであり、現在でも懸念すべき合併症である。
  • Negative pressure dressing(NPD)はSSIの発生率を有意に低下させ、Metaanalysisでもその効果が示されている。
  • 原理としては、NPDによる低酸素状態が局所および全身の炎症性サイトカイン上昇を引き起こし、血管新生や細胞外基質の沈着を刺激し、肉芽形成を引き起こす。
  • 腹部手術のSSI発生率は10-35%と報告されている。
  • NPDが腹部手術のSSI発生を低下させると仮定し、本研究を行った。

Methods

  • Open-label(非盲検)のrandomized試験を施行した。
  • 予定手術と緊急手術で開腹手術予定の患者を対象とした。
  • 除外基準
  1. class IVの汚染創 (http://www.woundcarecenters.org/article/wound-types/surgical-wounds)
  2. BMI40以上
  3. ASA garade4以上
  • 抗生剤投与や清潔手技などは通常通り。
  • NPD群とコントロール群(通常ケア群)に1:1で割り付けし、NPD群はPICO dressingというデバイスを用いた(PICO* 創傷治療システム | Smith & Nephew - Japan)。
  • DressingはSSIがなければ4日で除去し、SSIはガイドラインに従って診断された。
  • Primary outcomeは術後30日でのSSI発生率。
  • SSI発生率をコントロール群で35%と見積もり、NPDが発生率を10%減少すると仮定して、必要症例数は各群25例とした。

Results

  • 患者背景に差は認めなかった。
  • 30日後のSSI発生率はNPD群で8.3%(2/24)、コントロール群で32.0%(8/25)であった(片側P=0.043、両側P=0.074)
  • 術後平均在院日数はNPD群で6.1日、コントロール群で14.7日(P=0.019)で、有意にNPD群が短かった。
  • SSI発生の予測因子としてはDressingの違いのみが単変量解析で同定された。

Discussion

  • 予防的なNPD療法は開腹手術創のSSI発生を抑制し、在院期間も他院宿できた。
  • PICOは浸出液を200mlまで吸引できる。
  • すべてのタイプの創で効果があるのかはわからないが、汚染創でより効果がありそうだ。

Comment

25例づつのRCTです。単施設で可能なRCTであり、期間もそこまでかかっていないと思われます。このような研究のアイデアはほかにもありそうに思えます。腹腔鏡手術全盛の日本だとSSI発生率はもっと少ないと思います。

KRAS変異大腸癌に対する養子免疫療法

T-Cell Transfer Therapy Targeting Mutant KRAS in Cancer
EricN Engl J Med 2016 375:2255-2261

 

先週のNEJMにまた新たな免疫療法の成績が報告されました。これは現在話題になっている抗体療法ではなく、TIL(tumor infiltrating lymphocytes:腫瘍浸潤性リンパ球)療法というものです。TIL療法とは、がん周囲に集積しているリンパ球などの免疫細胞を採取し、それをIL-2など共に培養して体内に戻す方法らしいです。すでに癌を認識している免疫細胞を使用するため、効果が得られやすいという考え方です。今回の論文ではKRAS mutant G12Dを持つ切除不能大腸癌症例に対して、 特異的な自家腫瘍由来 T 細胞を移入し、奏効を示した症例の症例報告みたいです。

 

 抗腫瘍リンパ球の養子細胞移入の詳しい手順については読んでも全くわかりませんでした。ほかの教科書を見ての想像ですが、

  • 腫瘍切除し、腫瘍内浸潤リンパ球を体外ex VIVOで調製して殖やす。
  • これら不均質なTILs集団 をTマイク口タイターウェルでのサブク口ーニングによって分離する。
  • サ ブク口二ングした集団の中から、KRASG12D変異ペプチドに曝露した後にインターフエロンを豊富に産生するものを同定する。
  • 適切な増殖因子の存在下で培養し、試験管内で十分に増やす。 

の手順ではないかと思います。

結果

  • 投与40日後の検査では7つの肺転移全てが縮小していた。
  • 9か月後には6つの病変が縮小を維持していた。
  • IL-2投与の影響から回復後は有害事象は認められなかった(IL-2を同時に投与するようである)。投与後2週間で退院した。
  • 9か月後に増大傾向の1病変と、その近傍にある縮小した病変1病変を切除したところ、縮小病変にはvariableな癌細胞は認めなかった。
  • 9 ヵ月後に増大していた病変には、この T 細胞が認識する主要組織適合遺伝子複合体クラス I の発現がみられなかった。

 

たった1例の症例報告ですが、治療が奏功しているためかNEJMに掲載されています。大腸癌のPD-1抗体もたった1例の奏効例からMMR欠損症例に絞られたのを思い出しました。やはり1例1例が大事だなと思わせる報告でした。免疫療法の勉強もっとしないといけません。

大腸におけるCOX-2発現は吻合部治癒に重要である。

12月が近づくと、忘年会やらクリスマスやらで街中があわただしくなります。我々消化器外科医は12月に消化器外科学会の抄録締め切りがあるから、それを乗り越えない限りは、年末の浮かれ気分はやってこないのだ!

以前から大腸術後にNSAIDSを使うと縫合不全が増加してよくないといわれていました。今回の論文はそのメカニズムの一つを示していると思います。外科領域でこのようなマウスを用いた実験を行うのはかなり勇気がいると思いますが、この筆者らはいい結果を示しています。

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Cyclooxygenase-2 Is Essential for Colorectal Anastomotic Healing

Ann Surg. 2016 Apr 8.

 

Introduction

  • COX-2は腸管のホメオスターシスに重要な酵素で、アラキドン酸からプロスタグランジンを生成する。プロスタグランジンE2(PGE2)は実験モデルにおいて、腸管の炎症やダメージを正常に回復することが報告されている。
  • COX-2の発現は炎症性サイトカインや感染の暴露後、マクロファージや筋線維芽細胞などの間質細胞によって誘導され、細胞の分化やアポトーシスの抑制を引き起こす。最終的には上皮細胞から産生されたCOX-2とPGE2はVEGFにより引き起こされる血管新生に密接にかかわっている。
  • 大腸手術後のCOX-2を強く阻害するNSAIDSの使用は縫合不全を増加させることが報告されているが、最近のMetaanalysisではその証明はなされていない。
  • このような背景から、筆者らはNSAIDSとCOX2のKOマウスを用いて、COX-2が大腸手術時の吻合部への血管新生ならびに創傷治癒に重要な役割をはたしていることを報告する。

 

Methods

  • COX-2KOマウスを用いて、右結腸を切除後に吻合する手術を施行した。縫合不全率は25-33%。
  • マウスにPGE2アナログかNSAIDSであるジクロフェナックを術前1日目から実験終了まで腹腔内投与した。
  • マウスは術後5日目にsacrifyされ、縫合不全の有無を確認され、吻合部周囲の腸管は免染用とRNA抽出用に採取された。
  • 148例の大腸切除後症例のFFPEサンプルから、DNA抽出した。そのDNAを用いて、COX-2遺伝子多型(-765>GC)を調べ、縫合不全との関連性を調べた。

 

Results

ジクロフェナック投与によるCOX-2阻害実験

  • コントロールマウスでの縫合不全率は27%であったが、ジクロフェナック投与群は縫合不全率100%であった(P=0.001) 。
  • 生存成績もジクロフェナック投与群が有意に不良であった(HR17.9, 95%CI 3.7-87.4)。

COX-2 KOマウスによる実験

  • COX-2 KOマウスと野生型マウスにおける縫合不全率を比較したところ、COX-2-/-マウス群では縫合不全率92%で野生型では27%であった(P=0.003)。
  • 生存成績もKOマウス群が有意に不良であった。

COX-2阻害による免疫反応への影響。

  • 創傷治癒の早期では好中球が免疫反応の主体であるが、COX-2 KOマウスと野生型マウスではペルオキシダーゼ染色(好中球と単球を染色する)で染まる細胞数に差はなかった。
  • また、マウロファージの細胞数にも差がなかった。
  • これらの結果は局所の細胞性免疫反応はCOX-2発現と関連がないことを示し、別の要因が関与していることを示唆した。

COX-2阻害による血管新生への影響

  • 吻合部の虚血が縫合不全の要因であり、COX-2が血管新生にかかわっていることから、COX-2 KOマウスでは吻合部領域の血管新生が阻害されているのかを調べた。
  • 血管新生の指標であるCD31抗体(血管内皮細胞表面に発現)で染色したところ、COX-2 KOマウスは野生型と比較して有意に血管数が少なかった(2 vs. 6 vessels/mm2, P=0.03)。
  • COX-2 KOマウスにPGE2を投与した群はコントロール群と比較して血管数の増加を認めた(4 vs. 2 vessels/mm2, P=0.03)。
  • VEGF発現レベルはCOX-2 KOマウスより野生型マウスのほうが高く(P=0.02)、COX-2 KOマウスにPGE2を投与した群のほうがコントロール群より高かった(P=0.03)。

実際のヒト症例でのCOX-2多型と縫合不全の関係

  • 大腸癌切除後の148症例でPTGS2 -765G>C多型を調べたところ、C/C症例が縫合不全率43%(3/7)で、その他は11%(16/141)であった(P=0.02)。

 

Discussion

  • 吻合を伴う大腸手術の周術期はNSAIDS投与は控えるべきである。
  • COX-2変異症例は吻合部の創傷治癒が阻害される可能性がある。
  • 全体から見ると3%の頻度であるが、PTGS2 -765C/C症例は縫合不全率高いので、PGE2投与などが考慮されるべきである。

 

コメント

大腸癌切除標本の切除断端付近におけるCOX-2の発現レベルと縫合不全の関連を調べてみてもいいかもしれません。消化器外科学会の抄録には間に合いません。

RAS野生型切除不能大腸癌において、原発巣の局在がPrognosticとPredictiveな指標になるか?

JAMA Oncol. 2016 Oct 10. doi: 10.1001/jamaoncol.2016.3797

 

今回は前回に引き続き、左右大腸癌の違いについての論文であります。First authorは泣く子も黙るTejpar先生なのだ!なんて読むんでしょうねー。他の共著者も若手のStintzing先生をはじめ、有名どころがたくさんそろってますねー。ずるい!また、JAMA Oncologyというところもなんかずるい!これはまだIFついてないですけどたぶんJCOとLancet Oncolの間ぐらい(IF20前後)行くんじゃないでしょうか。

日本でも現在PARADIME試験が行われていますが、こういうunmet needsに対する王道的な大規模ランダム化試験をもっと行ってほしいですなー。いかんせんNCCN大腸癌ガイドラインに日本の論文は外科的なもの以外ほとんど引用されていませんから。

 

 

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Intdoduction

  • 左結腸は後腸、右結腸は中腸由来である。
  • CRYSTAL 試験において、FOLFIRIにCmabを併用することにより、KRAS野生型切除不能大腸癌においてPFS, OS,RRの改善が認められた。
  • さらにextended RAS解析によりよりはっきりとその効果が認められた。
  • 切除不能大腸がんはheterogeneousであることを強調すると、原発巣の部位により、臨床的にも分子生物学的にも異なった疾患と考えられる。
  • 右結腸癌の特徴として、BRAF変異、マイクロサテライト不安定性、hypermutation、serrated pathway signature、mucinous癌症例が挙げられる。
  • 左結腸癌の特徴として、EGFR阻害剤感受性に関連する遺伝子発現プロファイル(HER2 amplified, epireglin high, CIN)が挙げられる。
  • またこれら分子生物学的な違いにより、右結腸癌は予後不良である。
  • このような分子学的な背景の違いがあるにもかかわらず、原発巣の局在が臨床試験のクライテリアには含まれてこなかったし、治療法選択に影響するかもまだ不明である。
  • 原発巣の局在とCmabの治療効果に交互関係があることを示す報告がいくつかある。
  • Cmabは左結腸癌のほうが効果が高い。
  • 今回CRYSTAL試験とFIRE3試験の2大コホートを使用して、Cmab+FOLFIRI治療を受けたRAS野生型切除不能大腸癌における、原発巣局在のprognosticとpredictive valueについて検証した。

 

Methods

  • 原発巣の局在は虫垂盲腸~横行結腸までを右大腸に、脾湾~直腸までを左大腸に分類した。
  • 両側にある多発癌は除外した。

 

Results

  • Baseline characteristics
    • CRYSTAL 右大腸癌:84例(23%)、左大腸癌:280例(76%)。
    • FIRE3 右大腸癌:88例(22%)、左大腸癌:306例(76.5%)。
    • 両試験において右大腸癌に女性、多臓器転移が多く、左大腸癌に肝限局転移が多かった。
    • CRYSTAL試験では右大腸癌でCmab+FOLFIRIを受けた症例は2次治療以降の治療移行割合が低かった。
    • FIRE-3では2次治療以降にそのような傾向は認めなかった。
  • 原発巣局在のPrognostic value
    • CRYSTAL試験では、Cmab+FOLFIRI群において、左大腸癌のほうが右大腸癌よりPFS,OS,ORR全て良好な成績であった。また、FOLFIRI群でも左大腸癌のほうが、有意ではないが右大腸癌より成績良好であった。
    • FIRE3試験でも同様に、Cmab+FOLFIRI群ではORR,PFS,OSすべてにおいて左大腸癌のほうが右大腸癌より良好な成績であった。この傾向は弱いものの、Bmab+FOLFIRI群でも認められた。
  • 原発巣局在のPredictive value
    • CRYSTAL試験では、左大腸癌症例において、Cmab併用により予想を上回るPFS,OS、ORRの有意な改善効果を認めた。しかし、右大腸癌ではサンプルサイズは小さいことを考慮しなければならないが、Cmab併用の効果は限定的であった。
    • FIRE3試験でも同様に、左大腸癌ではCmab+FOLFIRI群の方がBmab+FOLFIRI群よりも有意に良好なOSであった(PFSとORRは有意差なし)。反対に右大腸癌ではCmab群とBmab群に差は認められなかった。
  • 原発巣局在と治療法の交互作用に関する多変量解析
    • CRYSTAL試験:PFSとOSに関して、原発巣局在と治療法(Cmab併用vs非併用)の間には有意な交互作用が認められた。
    • FIRE-3試験:OSに関してのみ、原発巣局在と治療法(Cmab併用vsBmab併用)の間に有意な交互作用を認めた。

 

Discussion

  • 多変量解析の結果、原発巣局在による治療効果の違いはBraf mutation statusとは独立していた。しかし、Braf野生型でも変異型と同じような遺伝子発現様式を示す症例もあり、それらが右大腸癌に多いといわれている。
  • 以前の研究ではEGFR経路の活性化したシグナルが左大腸癌でよく認められ、それが理由でEGFR阻害剤治療に効果があるのかもしれない。
  • CALGB/SWOG80405試験では全体解析ではCmabとBmabの成績に差がないにも関わらず、原発巣局在別では本試験と同様の結果が認められた。

 

結論

  • RAS野生型切除不能大腸癌において、原発巣局在が予後因子であることは結論付けてよいだろう。
  • 左大腸癌ではCmab併用の効果が高く、右大腸癌ではそれほどでもないことが示唆される。
  • また、左大腸癌ではCmab+FOLFIRIのほうがOSに関してはより望ましいオプションかもしれない。

 

コメント

  • 今後は左右大腸の遺伝子プロファイリングの違いなどが報告されていくことが予想されます。

右左結腸癌での治療方針と分子学的特徴の違い

昨今、大腸がんの世界では原発巣の左右部位別により分子標的薬の治療効果が異なることで、もー大盛り上がりです。古そうで新しいこのテーマに関して勉強するために、今回はReviewを読んでみることにしました。論文は以下のもの。

World J Gastroenterol 2015 June 7; 21(21): 6470-6478

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  • Introduction
    • 結腸は発生学的に中腸と後腸に分かれて由来している。
    • 解剖学的には血流や神経支配、リンパ管ドレナージ、管腔内環境が右と左結腸で異なっている。
    • 左結腸癌のほうが頻度は多いが、右結腸癌の数が増えてきている。
    • 右結腸癌の特徴として、女性、高齢、インスリン耐性、低分化腺癌(mucinous)、より進行した病態、リンパ節転移高頻度、腹膜転移が遠隔転移より多いなどがある。
  • 予後と治療方針
    • 切除症例StageI-III、StageII-IIIで左右の予後の差なし。
  • 術後補助化学療法
    • 術後補助化学療法StageIIでは左右結腸癌で予後への効果なし。
    • StageIIIでは右結腸で36%、左結腸で39%の5年OS改善効果あり。
    • FOLFOX術後補助療法に関して、症例全体では左結腸のほうが予後が良かった(N0147試験)。
    • pMMR症例のみのサブグループ解析では右結腸癌のほうが左結腸癌よりDFSは良好であった。dMMR症例では右結腸癌でのみpMMRより良好なDFSが認められた。
    • KRAS statusは右結腸癌ではTTR、DFSに影響しなかったが、左結腸ではKRAS変異型がTTR,DFSの予後不良であった。
  • 切除不能大腸がんに対する化学療法
    • Stage IV大腸癌では腫瘍部位により化学療法の治療効果が異なる。
    • 左結腸癌症例のほうが明らかに予後が良い。
  • 抗EGFR療法
    • Cetuximab併用化学療法症例では、左結腸患者が有意に良好な結果でPFS7.7 vs 5.2か月で、OSが23.6 vs 14.8か月であった。
  • 抗VEGF療法
    • Bmab併用化学療法症例でも左結腸患者が有意に予後良好な結果であった。
  • Genotype
    • cDNAマイクロアレイでは1000遺伝子において右左結腸間の発現量に差が認められる。
    • MMP2、P53、βカテニンが左より右結腸に高発現していた。
    • Chromosome instaibility経路は左結腸で75%、右結腸で30%に認められる。
    • P53変異は左結腸で多く認められる(45%vs34%)。
    • MSI-H大腸癌は右結腸で多い(90% vs 19%)。
    • CIMPは17-28%の大腸癌で認められるが、頻度的には右結腸癌に多い。
    • ゲノムワイドメチル化も右結腸で頻度が高い。
    • PRAC遺伝子の高メチル化は右結腸で、CDX2遺伝子の高メチル化は左結腸で頻度が高い。
    • KRAS変異は右結腸で頻度が高い。
    • BRAF変異の頻度も右結腸で高い。
    • BRAF変異の頻度は口側から肛門側へリニアに減少していく。
    • miRNAの発現も腫瘍部位と関連している。
    • ERCC1はKRAS野生型大腸癌では右結腸に高発現している。
    • テロメアーゼの発現は右結腸のほうが高い。
    • TopoIとTS発現は左結腸で高い。

 

あとがき

まーわかったようなわからないような。そんな不思議な気持ちになれますね。つまりはなぜ分子標的薬の効果が左右で異なるのかはまだ分かっていないみたいですね。特にCetuximabが顕著で、RAS statusより影響が強いようです。

 

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大腸癌肝転移: 肝切除か全身化学療法か?

Early tumour shrinkage (ETS) and depth of response (DpR) in the treatment of patients with metastaticcolorectal cancer (mCRC).

Eur J Cancer. 2015 Sep;51(14):1927-36.
 

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背景:
大腸癌肝転移に対する治療は肝切除が第一選択で、長期生存を望める唯一の治療法であると認識されている。よって、大腸癌肝転移症例に対する肝切除VS全身化学療法の臨床試験は倫理的に受け入れられないと考えられる。今回は、切除不能大腸癌肝転移症例に対し全身化学療法を施行した2つの第III相臨床試験(CAIRO, CAIRO2)について、ベースラインに肝切除が可能であったかを検証した。次に肝切除可能であった症例と実際に肝切除を施行した別コホートの症例をマッチさせて生存成績の比較を行った。
 
方法:
  • 全身化学療法群:CAIRO試験(sequential vs combination: n=820)とCAIRO2(capeox+Bmab vs capeox+Bmab+Cmab: n=755)を全身化学療法群の対象とした。これらの臨床試験は切除不能大腸癌であることが登録基準であったが、 今回新たにmultidisciplinary liver teamによる肝切除の可能性判定を行った。肝限局転移症例(転移個数10個以下)の症例を対象とし、化学療法後肝切除施行した症例やFong’s CRS(CEA、肝転移個数、サイズ、原発巣リンパ節転移、原発切除から転移巣治療までの期間)のデータがない症例は除外した。
  • 肝切除群:CAIRO試験と同時期にラドバウド大学とエラスムス医療センターにて肝切除を施行された症例を対象とした。術前化学療法症例やRFA併用症例は除外した。
  • 肝切除の判定とマッチング:2つのCAIRO試験のベースラインCTを3人の肝臓外科医が判定した。マッチングは性別、年齢、Fong's CRSの5因子、肝外転移なしを用いて行った。
 
結果:
  • マッチングされた症例の内訳:全身化学療法群で登録基準に合致した症例は36例であった。肝切除群359例がマッチングされた。
  • 生存成績比較:全身化学療法群のマッチングされた症例のOSは化学療法群全体のOSより優位に高かった。Median OS:全身化学療法群27ヶ月 vs 肝切除群56ヶ月(P=0.027)であった。

 

コメント:
全身化学療法と肝切除のどちらが有効かを検証した研究ですが、CAIRO/CAIRO2試験ともに現在の標準治療とはいいがたいレジメンの試験である点が問題だと思います。また、10個以上の肝転移症例は除外されており、このような症例が本来比較されるべき症例ではないでしょうか? しかし、方法論としては興味深く、より多数の第III相試験とLivermet surveyのデータなどを比較すると面白いのではないでしょうか。

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大腸癌手術におけるプロカルシトニン測定の意義

Procalcitonin Reveals Early Dehiscence in Colorectal Surgery: The PREDICS Study.

Ann Surg. 2016 May;263(5):967-72

  • 背景
    • 2-14%で起こり得る縫合不全は大腸手術で最も懸念される合併症である。
    • 縫合不全は患者の術後経過に大きく影響する。
    • 多くは縫合不全の発見が遅れ、敗血症や腹膜炎などを起こしうるが、早期の発見によりそれを改善できる。
    • 近年のERASなど早期回復プログラムの導入で、早期に退院した患者では縫合不全の発見が遅れる可能性がある。
    • プロカルシトニンは甲状腺のC細胞で産生され、カルシトニンの前駆ホルモンとしての機能を持つ。通常状態では低レベルであるが、細菌性感染により発現上昇し、細菌性感染のモニタリングとして有用である。
    • 今回、我々のpilot studyの結果より、プロカルシトニンの縫合不全早期発見の有用性を検証した。
 
  • 方法
    • 多施設共同前向き観察研究
    • 対象は悪性疾患に対し予定手術で大腸切除吻合を施行した症例 (開腹+腹腔鏡)。
    • 周術期の臨床データを集積(術後3,5日目に血中プロカルシトニン、CRP,WBCレベルを測定)
    • 1日2回の状態評価と1日3回のバイタル測定を施行した。
    • 退院の決定は以下のクライテリア
      • 許容できる程度の経口摂取が可能。
      • 下部消化管機能が回復している。
      • 疼痛が経口鎮痛剤でコントロールされている。
      • 敗血症を疑う所見なし。
    • 縫合不全の評価
      • 注腸造影併用のCTスキャンでの造影剤漏出。
      • ドレーンの混濁
      • 腹膜炎や腹水貯留
      • 吻合部周囲のairの存在
      • 再手術や穿刺ドレナージが必要なものをmajor leakageとした。
    • 統計
      • プロカルシトニンのcut off値については、縫合不全予測のROC曲線にて決定した。
 
  • 結果
    • 504例が対象で28例(5.6%)に縫合不全が認められた。
    • 術後3日目の特異度はPCT:91.7%、CRP:81.8%。
    • 術後5日目の特異度はPCT:93.0%、CRP:86.0%。
    • 術後3日目のAUCはPCT:0.775、CRP:0.772、WBC:0.601。
    • 術後5日目のAUCはPCT:0.862、CRP:0.806、WBC:0.611。
    • PCTとCRPを同時に測定すると術後5日目のAUCは0.901に改善した。
 
  • 結語:縫合不全を早期に診断できるマーカーとしてPCTは有用である。CRPも有用であり、両者の併用により診断用は向上する。
 
  • あとがき:
    • 単なる術後合併症の指標ではなく、縫合不全に特化して解析されているところが興味深い。
    • PCTは他の合併症と比較しても、特異度が90%以上と非常に高く有用である。
    • PCTは現在「敗血症を疑う患者を対象とする」ことになっており、本研究のような予防的な測定は日本では不可能である。
    • しかし、術後3-5日目のCRPのみで縫合不全を診断できるかといわれると難しい気がする。
    • 現在の大腸癌術後早期回復プログラム(ERAS)では術後5日目には退院することになっており、見逃してはいけない合併症に特化して考えられた研究である。

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